あの頃の私は若すぎて…。

N先生、どうしていますか。
今日私は、近くのスーパーマーケットに行ってびわの実を買ってきました。
冷蔵庫に冷やして、お風呂あがりに食べたら思いのほか、おいしくて
そしたら、私は30年くらい昔のことを思い出しました。

N先生、30年くらい前、私たちは同じ病院にいたよね。
私は当然、N先生に診てもらっていたのだけれど
私は施錠付きの個室の部屋にいたんだよね。
あの頃私は、良く、先生のことを困らせたよね。
今は、どうなっているのかわからないけれど、30年くらい前は
私たちがいた病院は、ちょうど今頃、びわの実がたわわに成っていてさ。
懐かしいね。お腹のすいていた私たち患者たちは
そのびわの実をがぶがぶ食べてお腹を満たしていたもんだったよね。

私は、N先生に施錠付きの個室の部屋に入れられちゃって毎日、苦しいやら淋しいやらで
私は落ち込んでいたっけ。
私の施錠付きのお部屋には、ちいさなお庭があって
私が食べたびわの実の種を、私が別に意味も無く植えてみたら、芽が出ちゃってさ
N先生は、私が施錠付きの部屋に入れられて落ち込んでいることをわかってたから
私がN先生に「先生、びわを植えたら芽が出てきちゃった。」って言って
私が苦笑したら、N先生は
「僕、こうやって何かの芽が出てくるの、僕、初めて見た!」って言って喜んでくれて
N先生は、そういった形で私のことを、励ましてくれてたんだっけ。
N先生、ちょうど、30年くらい前の今頃のことだよね?

私の家は貧しいので、そんな年中は食べられないけれど
今日、思い切って、スーパーに行って、売っていたびわを買ってきて
食べてみたら、30年前のことが鮮やかに甦ってさ
N先生、私はまたひとりで苦笑したよ。

N先生、あれから30年経っちゃったね。
私は障害者になっちゃうし
ほんと、苦笑だね。